私は、この世界には巨大なモンスターが潜んでいると感じている。

この世界の中に潜み、この世界を覆い、否応なしに私たちの中に侵入してくるあのモンスター。それは遠い昔からこの世界に潜んでいて、私たちを突き動かしている獣だ。私は最近、ニュースに、街に、TVの中に、流行の音楽の中に、そのモンスターの影を感じて怯えている。

現在の私たちは、価値を裏付けていた伝統も反抗すべき権威も失い、孤独な不安の中に一人で立たされようとしている。地に足の着いた生活が、伝統の安定が、権威の威光が、あのモンスターを飼いならしていたのに、信じられるものが何もなくなりつつある今、あのモンスターは楔から解き放たれ、野放しにされようとしているのかもしれない。

岐阜県吉城郡神岡町の地下1,000mに、スーパーカミオカンデという東京大学宇宙線研究所の宇宙素粒子観測施設がある。直径39.3m、高さ40.4mの純水で満たされた巨大な円筒だ。この施設は、素粒子の一種であるニュートリノを観測するための装置である。地球を貫通するほどの強い透過性をもっているというニュートリノの性質を利用して、余計なノイズを完全に遮断するために、この装置は地下深く埋められているそうだ。そしてニュートリノは、純水の中を通過する時に光を発するという性質をもってる。この微かな光を捕えるために、円筒の内壁には無数の光電子増倍管という目玉のようなセンサーがびっしりと設置されている。

私は、この装置の有り様に強く想像力を喚起させられる。

 

地底深く埋められた奇妙な天文台。

暗い水で満たされた巨大な円筒。

その閉ざされた内部のみを見つめ続ける無数の眼球。

なんでも通過する幽霊のような信号を捕らえる装置。

 

この展覧会は、そのような装置をギャラリーの中に設置しようとする試みだ。

あのモンスターは、それ自体では姿形を持たず、言葉や理性では捕らえられない。「描く」という単純な装置は、そのモンスターが私たちの中を通過する時に発する微弱なシグナルを捕らえることができる感度を持っている、と私は考えている。

過剰さによってしか超えられない場所で、私は描くことの持つ力の一つを確かめてみたいと思う。その力は、自閉の闇に落ち込む危険に常にさらされている私たちの灯台となり、モンスターを直視する強さを私たちに与えてくれるはずだ。

 

この装置の中心に立つとき、あのモンスターは私たちの前にその姿を現すだろう。